後編はこちら:Web業界・EC業界・ソシャゲ業界の違い(後編)「商品特性とコントロールできるレバー」
年明けで様々な記事を読んでいたところ、以下の記事を発見しました。
Web業界からEC業界に行ってブチ当たった、皆が教えてくれない「EC業界の見えない壁」の正体を、もやっと掴めました!
ECサイトの運営に携わっている方にはぜひ読んでいただきたい内容です。
記事を書かれている永上さんは、以前の会社が一緒だったこと、そして過去にブログで取り上げていただいたこと(参考:「えがちゃん」に取材をしていただきました!)などのご縁がありました。そんなこともあり、2013年から永上さんが運営している「メンズファッションプラス(株式会社ホットココア)」のコンサルティングを担当しております。
2013年の春からコンサルティングを開始したので、間もなく2年間になります。最初はアクセス解析に関する内容が中心でしたが、最近は記事に書かれているようなアクセス解析にとどまらない話をしており、前回のミーティングでも永上さんが記事に書かれていた内容の前段を議論しておりました。
本人から、以下の用なFacebookメッセージをいただいたので、私なりに考え方を整理し、次回のミーティングに備えると同時に、同内容を公開させていただき、更に議論を深められたらと感じました。
アクセス解析が主業務な人の見地なので、他の分野に携わっている方からの意見もいただければ嬉しいです。
私自身のバックグラウンドと「業界」の定義
企業遍歴
マイクロソフト→ウェブマネー→リクルート→サイバーエージェント→アマゾンジャパン
という事で永上さんが書かれているWeb・EC・ソーシャルゲーム業界の分析に携わってきました。
それぞれの定義は私なりの認識としては以下の通りです。
Web業界:電子商品やサービス あるいは オフラインにコンバージョンがあるサービスのオンライン部分を提供している業界
EC業界:実在商品をオンラインで購入することができるサービスを提供している業界
ソーシャルゲーム業界:(スマートフォンを中心に)利用者への課金で成り立っているゲームやコミュニティなどのサービスを提供している業界
もう少し具体的に、私が過去に所属している企業が提供しているサービスの例を上げると
Web業界:MSN・Hotmail・OneDrive(マイクロソフト)・WebMoneyの購入(ウェブマネー)・SUUMO・リクナビ・HotPepper・ポンパレ(リクルート)
EC業界:Amazon(モール側ですが)・メンズファッションプラス(ホットココア)・赤すぐ(リクルート)
ソーシャルゲーム業界:ピグ・ガールフレンド(仮)(サイバーエージェント) 他社だとパズドラ・モンスト・黒猫のウィズなど
こんな感じですかね?(今回はBtoB業界に関しては記事内に言及が無いので取り上げませんが、また別の機会に記事に出来れば)。
過去の経験に基づく、これら3つの業界の違いは大きく分けて2つにあります。
1つは「収益と集客」に関する違い。具体的には「収益モデル」「集客対象」「集客手段」「クリエイティブ」の4つに分解出来ます。
もう1つは「商品特性とコントロールできるレバー」に関する違い。具体的には「商品の定義」「在庫という考え方」「商品が必要とされる回数と頻度」「コントロールできる要素と指標」の4つですね。
今回は「収益と集客」について紹介し、次回は「商品特性とコントロールできるレバー」を紹介いたします。
収益と集客
収益と集客:収益モデル
先程の業界の定義の違いで、既にお気づきかと思いますが、3つの業界では収益モデルに違いがあります。
それぞれの収益モデルは以下の通りです。
Web業界:サービス利用料・掲載料・アドネットワークや広告・タイアップ・他サービスへの送客
EC業界:商品の販売
ソーシャルゲーム業界:ゲーム内課金(ガチャやアイテム購入など)
- 「サービス利用料」:サービスを利用するために利用者からお金をいただくモデル。多くのサービスでは無料と有料サービスの両方を設けている
- 「掲載料」:情報を掲載する変わりにクライアントからお金をいただくというモデル
- 「アドネットワークや広告」:Google AdSenseやAmazonアソシエイトなど、広告経由で発生した売上の一部を収益とするモデル
- 「タイアップ」:メディア系でよく見られる記事広告やタイアップによって収益を得るモデル
- 「他サービスへの送客」:該当サービス単体で売上を上げることを目標とせず、他の売上を作っているサイトへの誘導を行いそこで売上を上げるモデル
- 「商品の販売」:自社あるいは仕入れた商品の販売によって発生する売上
- 「ゲーム内課金」:ゲームを有利にすすめるための電子アイテムやカードなどの購入
といった感じでしょうか。
上記を基本として、複数のモデルを交えたり、配分が違ったりというケースも考えられます。
収益と集客:集客対象
収益モデルが違うということは、集客対象も変わってきます。
細かい例外はあれど、大切なのは「収益に繋がる人」を集客するということです。では、それぞれの業界で確認してみましょう。
Web業界:有料サービス利用者・有料サービス利用者に繋がる無料サービス利用者・無料モデルの場合は広告クリックなどに繋がる人数の確保
EC業界:商品を購入してくれる訪問者(=ポテンシャルカスタマー含む)
ソーシャルゲーム業界:課金をしてくれる利用者・サービスを利用してくれる無課金の人
Web業界が一番複雑ですね。サービス利用者からお金をいただくか、広告でお金をいただくか、大きく2つのアプローチがあります。前者の場合はサービスを利用するであろう想定ユーザーを集める必要がありますし、後者の場合はより大勢の人数やページビュー数を集めることが大切になります。EC業界の場合は商品を購入するであろう、対象カスタマーに的確にリーチすることが大切です。ソーシャルゲーム業界の場合、とにかく規模が大切です。課金する人を集めることも必要ですが、無課金の人がいないと課金する人が優越感を感じられいという側面もあり、無課金・課金関係なく人を集めることがサービスを成長させていく上では欠かせません。
また、それぞれの業界において大切なのは、継続的にサービスを利用してくれる人をいかに集めるかという事になります。そのために新規確保とリピーター確保に関してはサービスのステージによって戦略を変えていく必要があります。どの業界も基本的にはリピーターのほうが収益に繋がりやすい(=購買率が高い)です。それはサービスや商品の購入経験がある事による「次回購入時のハードルの低さ」が理由です。売上を伸ばしていくためには、サービス初期は新規を集め、途中からリピーター確保のための集客や施策に切り替えていく、あるいはそれを交互に繰り返していくこと(OR同時に実行すること)が大切になります。リピート獲得の行いやすさは商品特性によって変わってきます。毎日使うサーヒスなのか、人生に1回だけ購入する商品なのか。商品のライフタイムバリューを意識した集客が必要となってきます。
収益と集客:集客手段
集客対象者が違うということは、集客手段も変わってきます。集客手段によって集客できる対象者が変わってきます。
そこで各業界の主な集客方法を確認してみましょう。
Web業界:自然検索・リスティング広告・アドネットワーク・バナー広告・ソーシャルメディア・マス広告
EC業界:自然検索・リスティング広告・アドネットワーク・バナー広告・メールマガジン・ダイレクトメール
ソーシャルゲーム業界:アプリ内広告・ブースト施策・アプリストア最適化・マス広告・タイアップ・メディアミックス
【Web業界】
どのように売上を作ろうとしているかによって、集客方法とその配分が変わってきます。またサービスの規模によって変わってくるという側面もあります。そのため複数の広告手法の理解と使いこなしが必要となります。
広告掲載料をいただくモデルであれば、マス広告やバナー広告で規模を獲得することが、まずは大切です。同業他社と比較して「業界ナンバーワンの訪問者がいる」あるいは「このような形で広告を出している」という事実は営業の成約率に良い影響を与えます。しかしずっとマス広告やバナー広告を予算的に行なうのが難しい場合は、自然検索からの流入(SEO対策)やリスティングへの注力が必要となってきます。利用者から課金をする場合は、最初に規模を追い求めるのではなく、興味感心が高いであろう媒体やソーシャルメディアでの集客から始め、フィードバックをもらいながらサービスを改善し、その後に大きく集客を行なうという戦略が考えられます。
大切なのは、どういう人たちをどのタイミングで集めたいかを戦略的に決めて、そのタイミングで最適な集客手法を使うということです。
【EC業界】
収益の大半は商品の購入によって発生するため、購入検討者に絞った広告が効果的です。人数の量を追い求めることの意味は少なく(販売商品の対象が広い場合を除く)、購入する可能性が高い人を連れてくることが大切です。一般的に有効なのはリスティング広告です。検索したキーワードや興味・属性にあわせた広告を出稿できるため、ターゲットが絞りやすいというのが最大の利点です。また無駄な広告を打つリスクを減らすことが出来ます。同じ観点で、自然検索での流入数を増やすためのSEO対策も最初は重要です。
しかし、商品に関連するキーワードでのSEO対策やリスティングは(割とすぐに)限界をむかえてしまいます。つまり関連するワードの対策とリスティング出稿を行ってしまうと、後は細かい最適化になってしまい大きく流入を増やすのが難しいということです。そのため、他の集客手段を利用することになるのですが、コンバージョン率やROIなどの観点、そしてボリュームの観点からインパクトを出すことは難しいケースが多いでしょう。そこで考えられる方法は主に4つなります。「新しい商品の開発」「新しい収益方法を取り入れる」「海外展開などで対象者を広げる」「リピーターの確保と売上に注力する」といったあたりでしょうか。
リピーター獲得に関してはリターゲティング広告(未購入者も含む)・メールによるコミュニケーション・ダイレクトメールなどが有効です。この辺りに関しても昔から手法が決まっており、大きな技術的なあるいは媒体的な進化が少ないというのが筆者の印象です。永上さんが書かれている「集客でやれることが少ないから、「マーケティング系の集客」だけが異常に進化」というのはこの部分を指しているのかもしれません。他の業界と比較して「集客のてっぺんが見えやすい」というところが、あるのかもしれません。
【ソーシャルゲーム業界】
他の業界とは大きく考えが違います。規模が最も売上に影響してくるのがこの業界です。そのため新規獲得のためには(期待されているサービスであれば)様々な手法を活用してとにかく人数を集めます。特にマス広告は規模を集めることを考えれば最適なメディアなどで、テレビCMなどを中心に集客を行っていることは皆さんもご存知かと思います*1。またアプリて提供されているサービスがあるため、いわゆる検索エンジンによる流入は間接的に見ても少ないです。Google Play及びApple Storeで順位を上げるための各種施策(アプリ内広告・ブースト施策・アプリストア最適化)が重要となってきます。
新規獲得には限界があり、継続課金が売上を作るという観点においては、リピーター獲得施策(=継続率を上げるための施策)が非常に大切になります。これは他の業界とは違い、継続してプレイをしてもらうことの施策がこの中に含まれます。他の業界でもメールマガジンやソーシャルメディアで行われるケースが多いですが、ソーシャルゲームの場合はゲームそのものの施策を通じてリピーターを増やしDAU(=日別訪問者)を上げています。具体的には「連続ログインボーナス」「イベントの早期予告」「もらってから一定期間後に使えるアイテム」などが上げられます。
収益と集客:クリエイティブ
広告業界においては、広告として掲載するために制作された広告素材などを指す語である。インターネット広告においては、バナー広告に使用する画像などを指すことが多い。
クリエイティブの語は、基本的には、広告の形式や内容に関わらず広告素材全般を指す語である。インターネット広告でも、ディスプレイ広告(バナー広告)、テキスト広告、メール広告など、あらゆる形式の広告素材をがクリエイティブに該当する。他方で、もっぱらバナー広告を指すものとしてクリエイティブと呼んでいる場合も少なくない。
なお、英語の「creative」は形容詞であり、普通は広告用語のクリエイティブのように名詞としては用いられない。「クリエイティブな広告」などのような場合は、広告用語ではなく、「創造的な」「創造性に富んだ」といった英語のもともとの意味合いで用いられている。
クリエイティブの作り方や考え方も業界によって変わってきます。それぞれの業界において重要だと思われる要素を列挙します。
Web業界:サービスの特性や特徴・サービスの規模感・価格・ブランド認知
EC業界:商品そのものの魅力を多角的な視点で伝える・価格
ソーシャルゲーム業界:サービスの大きな特徴・サービスの規模感・お得度・魅力的な画像・他のサービスとの差別化
【Web業界】
Web業界の場合、重要なのはサービスそのものの説明です(何が出来るか・どういうメリットが得られるのか)。これはWeb業界が提供しているサービスが多岐に渡り、サービス名などからその内容を理解することが難しいためです。この辺は「商品を売っている」という明確が目標なEC業界との違いの一つです。まずはサービスを理解してもらい、利用する必要性を感じて貰う必要があります。特に新しいサービスやユニークなサービスの場合はこの視点が最も大切になるでしょう。
また、同じサービスを提供している同業他社がいる場合は、差別化も必要となってきます。その時に重要なのがサービスの規模感や実績、利用した人たちの口コミや感想になります。加えてそのブランドに対する認知と過去の利用体験も選定に影響してきます。住宅情報サイト・転職サイト・オンラインストレージ・レンタルサーバーなど同業他社が沢山いる業界の場合は、サービスそのものの説明ではなく、規模感や認知などが選定基準になってくるため、自社を選んでもらうためのクリエイティブが重要になってきます。
【EC業界】
規模が大きくても、ほしい商品がなければ、そのサイトを利用する理由はありません。大切なのは、提供している商品そのものの必要性・魅力をいろいろな角度で伝えることです。似たような商品がある中で、何故自分の所で買うべきなのか。他の商品とは何が違うのか。これを的確に伝える必要があります。永上さんが運営している「メンズファッションプラス」は男性の衣類を販売しているサイトで、それこそ同業他社は沢山います。では、何故このサイトで洋服を購入するべきなのか?そこを突き詰めた時に他のサイトとの違いを明確にする必要があります。
そのためには、顧客が何をもって商品を選ぶのかを理解する必要があります。ここは数値では現れにくい部分になり、リサーチやヒアリングなどから入手する部分になります。その結果によってクリエイティブを考えていく必要があります。またリサーチやヒアリングに依存しない、自分達の特徴を考えて明確にすることも必要です。この辺をしっかり言語化出来てクリエイティブとして訴求できる事も重要なのではないでしょうか。そしてもう一つ上げるとすれば、ここはテクノロジーを活用出来る部分ですが、最適なクリエイティブを最適なタイミングで提供するという事になります。どういう状態の人にはどういうアプローチのクリエイティブ(商品の質・商品の価格・商品のバリエーション・コーディネート・あの人も着ている など各種の訴求)が有効なのかを分析し、的確なターゲティングを行なうということです。
この辺りが、永上さんが書かれている「そもそも、マーケティング系の集客ってなんだよー。」という点については、またいつか、このブログに詳しく書いていければと思いますが、現時点での私の理解としては、「心理学」や「人間の習性」みたいなものを深く理解し、それに適応した集客の仕組みを作る。という部分に絡んでくるのではと思っております。
また上記の観点とは違った軸で、商品そのものではなく、体験・ストーリー・バックグラウンドを伝えることによる「共感」あるいはサービスやサポートのクオリティの高さを強みとした集客やマーケティング手法もあります。つまり同業他社と比較した時に、賞品力や価格では勝負出来ないが、「こういう理由から、この店で買い(続け)たい」という何かを提供出来るかという事です。集客時に表現するのは難しい場合も多いですが、サイトに訪れた時、リピーターになってもらう時などには大切な考え方です。例えば、私が属しているアマゾンで商品を購入するのは、価格的な優位性というよりも、購入のしやすさや配送スピードなどのサービス面が購入の決定要因になっているのではないかと考えています。
上記を実現するためには「自分達の商品やサービスの特徴と違いを理解する」「購入までのプロセスにおける購入検討社の心理や習性、行動の理解」「その理解と自社の商品や集客方法がどのようにリンクするのか」「ロジックにどのように落としこむのか」「その結果を元に、集客の仕組みをどのように作るのか」などを考える必要があります。なんとなく私の中で草案はあるものの、この辺りは永上さんと引き続き考えていきたい部分です。
【ソーシャルゲーム業界】
同業他社が多く、Web業界と似ている部分があります。そこで大切なのはやはり「差別化」をどう訴えるかという部分になります。実績が既に有るところは、数や実績を伝えるのが最も効果的です。「みんながやっている」「ランキング上位に入っている」といった訴求は非常に分かりやすく効果があります。しかし、実績以外に大切な要素は沢山あります。「声優やイラストレーターの知名度を利用する(タイアップなども含む)」「特徴的なシステムを訴える」「新規に始める際のお得度を訴える」「魅力的なイラストやキャラクターを全面に押し出す」など様々な要素があります。
1〜2年前は差別化ポイントだった「美麗なカードやグラフィック」「豪華な声優陣」などは現在差別化のポイントとなり得ません。どんどん変化・進化する業界の中で独自の訴求ポイントを的確に大勢に訴えることが大切になるため、クリエイティブの重要性は増しています。その一方で、生き残っているソーシャルゲームを見ると、クリエイティブはあくまでもゲーム開始のきっかけの入り口で、サービスそのものの魅力(=独創性、課金バランス、バージョンアップ、サポート)と継続のための取り組みが、売上に最も影響を与える要素である事は間違いありません。
最後に
今回は「収益と収穫」について自分なりに整理してみました。まぁ、整理というよりまだ羅列という状態に近いとは思いますが(汗)。今回の内容ははあくまでも違いの一端を表しただけに過ぎません。集客はあくまでも売上を作る「きっかけ」作りです。次回は具体例も交えながらもう一つの違いである「商品特性とコントロールできるレバー」について紹介した上でまとめようと思います。このような形で整理をすることにより、自分自身の理解を深めると共に、皆さんの意見やコメントを元にブラッシュアップ出来ればと考えております。
*1:テレビ広告は離脱ユーザーを呼び戻すという重要な側面もあります