ウェブサイトの分析に携わる職業であるウェブアナリスト。Google アナリティクスなどの解析ツールを使いサイトの課題を発見し改善案を出したり、定点で見るレポートを作成したり、クライアントや上司からの質問に答えたり。そのようなお仕事をイメージされるのではないでしょうか。
しかし、ここ数年でウェブアナリストとして成果を出すために求められる知識が幅広くなってきたのを実感しています。私が良く使うDMAICモデルに当てはめて、ウェブアナリスト(及びそれに近しいところ)の役割と求められる知識をまとめてみました。
10月23日開催の以下オンラインイベントでも、本テーマについて登壇者3名でお話しいたします!
DMAICから見るウェブアナリストに必要なスキルセット
名称 |
概要 |
求めれる知識 |
Define |
目標やKPI、マーケティング戦略に携わり改善方針を決める |
・ビジネスを計測可能な指標に落とし込む ・目標やKPIを達成するための戦略や戦術作り(ビジネスフレームワーク等) ・戦略や戦術を決めるためのウェブマーケティング全般の知識 ・ファシリテーション能力 |
Measure |
目標やKPI把握、サイト改善のために必要なデータ取得 |
・各種計測ツールの特徴理解と取捨選択 ・要件を計測設計に落とし込むためのノウハウ ・解析及びその周辺ツールの実装に関する知識(タグマネージャー,解析ツール, Big Query, ABテスト,ヒートマップ等) ・上記に付随するコーディングの知識(JavaScript等) ・解析及びその周辺ツールの設定とテストに関する知識(適切な目標やフィルター設定・デバッグの知識) ・データのプライバシーや安全性を確保するための手法や実現するべき事の把握 |
Analyze |
取得されたデータを元に分析やレポート作成を行うことにより課題を発見する |
・分析に必要なデータを整形して取得するための知識(SQL等)。分析前の前処理スキル。 ・各種解析ツールの利活用 ・データから特徴を発見するための分析スキル(セグメント・クラスタリング・統計アプローチ等) ・特徴から課題を導き出すための気付き力 |
Improve |
分析から得られた気づきに基づいて改善案を考えて実行して評価する |
・改善案を出すための「ネタ」の豊富さ ・ウェブマーケティング施策の理解(検索・広告・ソーシャル・アプリ等) ・改善案を実行してもらえるのために必要な説得力(効果予測のロジック・資料作成・プレゼンテーション) ・自ら改善案を実行する場合は、改善案実行に関するスキル(デザイン・ライティング・接客ツールやABテストツールの活用) ※ただこれはウェブアナリストの範疇外かも |
Control |
社内あるいはクライアントにて継続的な改善活動が出来る状態を作る |
・定点レポートなどの作成能力(ヒアリング・必要なデータ整理・Tableau/Googleデータポータル等の利活用) ・改善活動が続けられるような環境整備(運用ルールの整理・必要なドキュメントの整備・会議体の準備・運用フローの確率) ・また上記を実現するためにクライアントや上司から必要な人・物・金などを取得するためのコミュニケーション能力 |
沢山ありますね…(改めて書いてみてその幅の広さに驚いています)。
この10年でどのように変わってきたのか?
アクセス解析が生まれた当初はこのような状況ではありませんでした。
10年前(アクセス解析ツールの導入が始まった時期)はもう少し役割がシンプルだったはずです。Google アナリティクス(2005年リリース)などの解析ツールを導入し、それを使って「数値が見れる」だけでも喜ばれる時代でした。サイトの作りまだまだな所が多く、分析からの改善の成功率が高かったと記憶しています。
その後タグマネージャー(Google Tag Manager(2012年) や Yahoo!タグマネージャーAdobe Launch等)、ABテスト(Google Optimizeの無料化は2016年)などが登場。アプリやソーシャルの台頭によりウェブサイト以外での情報収集も大切になりました。
■Googleアナリティクス専用の書籍の販売は毎年コンスタントに行われています
その結果として、正しいデータ取得と設計(Measure)と、Improve(自社サイト+それ以外の場所での施策)の幅が広くなりました。私もこの頃から分析だけではなく、データ設計の仕事が増えました。私がリクルート時代(2006年~2012年)に多くのサイトのデータ取得設計を行ってきた知識が現在も活きています。
また各種ウェブサービスの台頭により、ウェブサイトだけでは終わらない全体の評価が必要となってきてDefineの部分がより複雑になりました。
ここ数年では「App+Web版のGoogle アナリティクス(2019年)」や「Server-Side GTM(2020年)」、BIツールの台頭。ITP(2017年)、GDPR(2018年)やCCPA(2020年)などデータのプライバシーに関する重要性も増してきました。より適切なMeasurementを行う必要が出てきました。
単純に画面のレポートだけを見て判断するとか、タグを入れてちょっと設定して終わりではなく、考慮しないといけない点が大きく増えました。また各種ツールはデータを収集するための仕組みとしてだけ機能させ、分析を別ツールで行うというようなケースも増えてきました。そのためAnalyzeの幅も広がっています。
2020年以降どうなっていくのか?
今後も様々な変化が起きることは間違いありませんし、更に複雑怪奇になっていくことも間違いないでしょう。私もウェブ解析の仕事を始めて15年その変化を最前線で実感しています。その中で2020年以降に向けて考えるべきことは3つあるかと思います。
- どのスキルセットを伸ばしていくのかを決める
- 分業と協業(だけど通訳の重要性は増す)
- 好奇心をもって色々試してみる事
それぞれを簡単に見ていきましょう。
1:どのスキルセットを伸ばしていくのかを決める
DMAICの全てを1人で行う事は難しいでしょう。私も一応一通り対応してきましたが、全部をキャッチアップして実行していくことの大変さを感じています。具体的には「Measureの技術的な部分」や、「Improveに必要な各種施策(例:SEO・広告・アフィリエイト・レコメンド等)の詳細レベルでの理解」や、「Controlを企業内に導入する」が私の場合は難易度が高いと考えております。
ウェブアナリストそれぞれ得意(あるいは好き)な領域があるかと思います。DMAICの中でどこが自分に向いているのか、そして今後伸ばしていきたいのか、現在の職務といて適切なのは何なのか。Will(取り組みたい)・Can(自分が今出来る)・Must(仕事として求められている)という観点から、優先順位をつけるべきだと考えています。
2:分業と協業(だけど通訳の重要性は増す)
ウェブサイト(あるいはウェブビジネス)を改善する上で必要な知識が幅広くなる以上、分業をしていくことが大切になります。今後は「ウェブアナリストという世界の中」で分業が起きてくるのではないでしょうか。
DefineやControlに携わらないウェブアナリストは既に多いかと思いますし、今後Measureは技術者にお願いする部分に更に増えそうです。AnalyzeもデータサイエンティストやAIの力が重要になってくるでしょう。
DMAICの複数の領域に携わる方も今後いるでしょう。Define/Measure領域においてはデータ整備人、Measure/ Analyze領域においてはマーケティングテクノロジスト、Analyze/ Improveにおいてはウェブマーケターなど、名称はさておき、その重要性は増すばかりです。
大切なのはDMAICのどのプロセスに関わるかに関係なく、DMAICという全体プロセスの事を理解する事、お互いに分業して協業していくという意識とアクションです。各パートの通訳になれる人(橋渡しや言語化)の重要性も忘れないようにしましょう。この通訳を出来る人の有無によって今後の改善活動の成否や社内浸透が変わってくると私は感じております。ぜひ皆さんにはその部分を担っていただきたいと願っております。
3)好奇心をもって色々試してみる事
ウェブアナリストとしてウェブアナリティクスをメインにしている方もいれば、自分のメイン業務(例:SEO・広告運用・サイト運営)を補完するスキルとしてウェブアナリティクスを活用している方もいるのではないでしょうか。
どちらのケースでも大切なのは、ビジネスとユーザーにとってより良い世界を作るために、様々な事に興味を持つことです。特にウェブアナリストの場合は、「マーケティング手法」そして「ビジネスやユーザーの事を理解するための各種サービス」に興味を持つことをオススメします。
・こんなマーケティング手法があるのか。うちの会社だとどのように活かせるのかな?
・新しいソーシャルメディアの無料分析サービスが出たぞ。さっそく使ってみよう!
・こんなデータがGoogle アナリティクスで取れるらしい。チェックしてみるか
といった感じで好奇心を持つことが大切かなと。筆者も良いサービスや実装方法が見つかったらすぐに試してみるタイプです(笑)
まとめ
ウェブアナリティクスの世界に15年ほど経ちました。割と地味な業界ですが(笑)、2019年~2021年は大きな変化になりそうな数年間です。
プライバシー関連を含めた外部環境の変化、データ分析を行う方法の多様化(App+Web・BigQuery・BIツールの台頭)、取得出来るデータの種類増加に伴うデータ設計の重要性、Googleデータポータル等のダッシュボードツールの機能強化などなど。
改めて全てを習得する必要はありませんが、多様化していく中で取捨選択を是非していきましょう。私としてはとってもワクワクしておりますし、皆さんにとっても様々な機会が用意されているのかなと考えております。
ユーザーの想いをデータから読み解き改善活動を続けていくという活動は決してなくならないですし、今後更に重要性を増していくでしょう。ぜひ一緒に良いインターネットの世界をこれからも作っていきましょう!
10月23日開催の以下オンラインイベントでも、本テーマについて登壇者3名でお話しいたします!