ソシャゲ分析講座 基本編(その5):「ARPPU」を理解する

最近は業務で、ソーシャルゲームの分析&改善施策の提案を行っています。そこで、本ブログではミニ連載という形で、ソーシャルゲームの分析手法について紹介をしていきます。基本編は8回程度を予定しており、好評であれば応用編も書きます。第5回は「ARPPU」に関してです。

■過去の連載記事
ソシャゲ分析講座 基本編(その1):「売上の方程式」を理解する
ソシャゲ分析講座 基本編(その2):「DAU」を理解する
ソシャゲ分析講座 基本編(その3):「継続率」を理解する
ソシャゲ分析講座 基本編(その4):「スペンド率」を理解する
ソシャゲ分析講座 基本編(その5):「ARPPU」を理解する
ソシャゲ分析講座 基本編(その6):「4つのステージとKPI」を理解する
ソシャゲ分析講座 基本編(その7):「イベントの分析」を理解する(前編)
ソシャゲ分析講座 基本編(その8):「イベントの分析」を理解する(後編)
ソシャゲ分析講座 基本編(その9):「カード」と「ガチャ」を理解する(前編)
ソシャゲ分析講座 基本編(その10):「カード」と「ガチャ」を理解する(後編)


Amebaのパズルアクションゲーム「ウチの姫さまがいちばんカワイイ

「ARPPU」とは

ARPPUとは「Average Revenue Per Paid User」の略称で、ECサイトでいうところでの「平均購入単価」になります。つまり決まった期間において、平均いくらお金を利用いただいたかということを表しています。1ヶ月間の平均ARPPUが「2000円」であれば、課金をした方の平均利用金額が2000円という事です。


サービスにとってはARPPUを上げることが、課金額を増やすための一つの重要な方法になります。なお、一般論ですがカードゲームのほうがARPPUは高くになる傾向にあります。逆にカジュアルゲームや、ブラウザーゲームに関しては、ARPPUが低くなる傾向があります。

何故カードゲームのほうが高くなるのか?

ARPPUが高くなる理由は主に2つあります。1つは「ガチャ」です。カードを直接入手する方法として用意されている仕組みです、様々な種類のガチャが存在します(これは応用編を書く機会があればその種類や特徴などを紹介したいと思います)。多くのカードゲームでは1回300円で販売されており、カードが存在(するケースが少ない)カジュアルやコミュティゲームでは、このガチャによる売上を作ることが出来ません。最近はセット(例:特定のレアリティ確定+30回連続で引ける)での販売もあり、高いARPPUになりやすい傾向になります。


GREEの「聖闘士星矢 THE ULTIMATE WARS」のガチャ


もう一つはカードゲームにおける「バトル」の要素です。多くのカードゲームではユーザー同士あるいはユーザーが所属するクラブ*1同士で対戦するという機能が存在します。このような争いが起きるところでは、勝ちたいという気持ちから課金をする事に繋がり、課金が(結果的に)促進されるということもあります。ユーザー同士の対戦の有無もARPPUに影響してくることが多いです。


ARPPUを確認する単位

ARPPUは日単位・週単位・月単位などで確認する事が多いです。サービス全体の進捗を確認するためには月単位の事が多く、その日に行われた施策を評価するときは、日単位を利用する事が多いです。例えば月の半ばに、1人1回だけ購入できる、単価5000円の「お得な福袋セット」を販売した場合、ARPPUが上がることが期待されます。逆に会員50万人突破記念として、「1人1回だけ50円で回せるガチャ」をリリースした場合、ARPPUが下がる事が予想されます(ただしスペンド率が増える事が期待されます)。このように用途に応じて、ARPPUの単位を使い分けることは分析をする上で非常に大切です。

ARPUとARPPUの関係

似た用語でわかりにくいのですが「ARPPU」以外にも「ARPU」(Pが1つ)という用語もあります。こちらは「Average Revenue Per User」という用語になり、ユーザーあたりの課金額という事になります。ARPPUとの違いは、ARPPUは「支払いをした人の平均購入額」ですが、ARPUは「(その人の課金有無関係なく)ユーザーあたりの平均購入額」になるということです。ARPPUとARPUは以下の計算式で表すことが出来ます。

日単位の場合
ARPPU × その日の課金人数 = ARPU × DAU

そして、このARPPU/ARPUの関係を見ることで、サービスの特徴や改善方法を考えることができます。以下の図をご覧ください


X軸がARPU、Y軸がARPPUになります。左上の第1象限から時計回りに確認してみましょう。
※左上⇒右上⇒右下⇒左下 という順番で第1・2・3・4象限となります


第1象限は「ARPUが低くてARPPUが高い」というパターンになります。つまり課金者はその金額が高いのですが、課金する人数が少ないためARPUが低いという状態です。これはカードゲームなどで割とよく見られるケースです。つまり一部の高課金者がいるという形です。(これは筆者の独断と偏見ですが)、状態としては割と不健全な状態と思われます。実はスペンド率を上げるより、ARPPUを上げるほうが(比較的)楽なので、こういった傾向のは作りやすいのですが、そもそもお金を払っても良いと思っている人が少ないということでもあるので、中長期的に見ると売上を上げるのが難しくなるというパターンです。


第2象限は「ARPUもARPPUも高い」という理想的な状態です。課金をする人が多く、その金額も高いということです。この状態を実現しているサービスは世の中でも非常に少ないです。どの値になったら「低から高」になるかに関しては、特に決めはありません。自社サービスや他社サービスで参考になる数値があれば、相対的に高い・低いという見方でも問題はあまりないかもしれません。後述しますが、大切なのはどういう方法で売上を上げていくかという形になります。


第3象限は「ARPUは高いけど、ARPPUが低い」という状態です。コミュニティゲームやカジュアルゲームなどはこのような傾向になりやすいです。課金をする人数が多いため、比較的第2象限に遷移しやすい状態と言えませう。出来ればサービスリリース後はこちらの状態を目指したほうが良いでしょう(言うのは簡単なのですが・・・)


第4象限は「ARPUもARPPUも低い」というサービスを運営していく上では厳しい状態になります。リリース直後なのか、リリースから日にちが立っているのか、あるいはそもそものサービスの位置づけによって、どうするかの戦略が変わってきます。まずはDAUを増やすフェーズということでこの状態で進むのか、あるいはこのままでは厳しいのでサービスを停止するという判断が入ることもあります。いずれにせよ、望んでこの象限に入るという事は少ないかと思います。


ARPPUを上げるための施策

ARPPUをあげるための施策は多岐に渡ります。基本的には「既に課金している人に、お得かつ高単価の商品を用意する」というのが考え方になります。そのため多くのカードゲームでは、(比較的お金の利用に余裕がある)月初に高単価の商品を用意する事が多いです。他にもイベントを通しての上げ方もありますが、この辺は各社・各サービスなりのノウハウが多いので割愛しちゃいますが、考え方としては「大勢の人が欲しい商品を適切な場所に配置する」ことが大切になります。


またスペンド率が下がるとARPPUが上がる傾向になります。スペンド率が下がるというのは、得てして「課金額が少ない人(初心者〜中級者)が課金をしなくなる」という事によって発生します。以下のようなケースになります。

ある月のスペンド率が10%、ARPPUが2000円でした。
翌月に上級者向けのイベントを実施したところ、スペンド率が6%に下がりました。

このイベントではARPPUが1000円以下の人の多くがスペンドをしなくなったため、結果的にARPPUは2500円に上がりました。
ARPPUは上がったのですが、スペンド率が下がってしまったため、結果的に売上も下がってしまいました。

どの指標でもそうですが、指標同士はお互いに連動しています。ある指標が上がったからといっても、最終的な目標である売上が下がってしまっては意味がありません。ARPPUも他の指標と同様、それぞれの影響を考えながら施策を行い、評価をする必要があります。


*1:左記に該当する一例として「クラブ」を上げているが、サービスによってその名称や仕組みは大きく違う