「Multi-Channel Attribution: Definitions, Models and a Reality Check」という記事を意訳してみました

アクセス解析系のブログで一番参考にしている、Occam's Razorアトリビューションに関する記事がありましたので、Facebookで紹介してみました。「いいね!」数が25以上集まったら翻訳します!って書いたところ、あっさり34件集まったので、意訳記事を書くことにします。


元記事はこちら



3種類のアトリビューション

「アトリビューション」について会話するときは、何のアトリビューションのことを話しているのかをまずは整理する必要がある。

1.Multi-Channel Attribution, Online to Store (MCA-O2S)

これは「オンライン上でのマーケティングがオフラインでどのような影響を与えているか」という観点のアトリビューションになります。CEOやCMOと話すと、この定義のことをさしていることが多い。つまり、複数の媒体(オンライン・リアル店舗・テレビ・新聞)がそれぞれにどう影響を与えるかということが重要です。マーケッターと話すと、このような定義が出てくることはほとんどありません。難易度が非常に高い内容だが、効果測定と活用が出来れば、そのインパクトは非常に大きいです。


2.Multi-Channel Attribution, Across Multiple Screens (MCA-AMS)

チャネルを「スクリーン」と定義した上でのアトリビューション分析になります。スクリーンは主に4つあり、それぞれ「テレビ」「パソコン」「タブレット」「スマートフォン」になります。このようにデバイスがここ5年〜10年で増えており、その関係がより複雑になっていることから、この部分を可視化していきたいという要望が出てきています。


つまり、これら複数デバイスを通じてユーザーが得ている「体験」を可視化し、どのような「結果」に至ったかを把握し、最適化するかということです。この分野のアトリビューションの難易度は「個人を特定する」難易度が非常に高いことです。唯一可能性があるのが、4つの画面全てでログインしているようなサービスや会社になります。AmazonNew York Timesはそれに近いです。それでも、難易度は非常に高く、多くの企業にとって実現は(現時点においては)不可能でしょう


3.Multi-Channel Attribution, Across Digital Channels (MCA-ADC)

「アトリビューション」という言葉を使う場合、ほとんどはこの3番に該当します。チャネルを「流入元」と定義した上でのアトリビューション分析です。流入元には、ソーシャル・ディスプレイ・バナー・メール・リスティングなどがあります。SiteCatalyst, Google Analytics, CoreMetricsなどは、ユーザー単位で過去に遡り、流入元に対して成果の貢献を割り当てるような分析が行えるようになっています。


ポイントは複数回の流入でコンバージョンが発生したときに、各流入元にどれだけの貢献を付与するかという部分になります。しかし、これは記事の後ほどで説明するとし、いくつか気をつけるべきポイントを確認してみましょう。


このような分析をする場合、基本的には一つのデバイスが対象となり、ほとんどの解析ツールはデバイス超え(例:PCとスマートフォンアプリ)での分析は出来ません。したがってアトリビューションの話をするときは、「MCA-AMS」と「MCA-ADC」は迷惑にわけて語る必要があります。そして、同じようにオフラインの行動もわかりません。もしかしたら、サイトに訪れた人の一部は、A→B→Cというチャネルから流入した後に、オフラインで購入をしたかもしれません。これもレポート上では見ることが出来ません。これを解決するには「MCA-O2S」に取り組む必要があります。


したがって、上司や他の人とコミュニケーションを行うときには、「アトリビューションの範囲」を明確にしたうえで、コミュニケーションを行う必要があります。そして、オンラインかつ単一デバイスで実施するだけでも、難易度が非常に高いことを理解しておきましょう。他の問題(オンライン広告・オフライン広告・人材)を解決してから取り組みましょう。


そして、誰かが「アトリビューション」について話しているときは、それが「MCA-O2S」なのか「MCA-AMS」なのか「MCA-ADC」を確認してみましょう!


マルチチャネルアトリビューションのモデル

さて、分析モデルの話に戻りましょう。ここでは、比較的難易度が低い「MCA-ADC」のモデルについて考えます。アトリビューション分析が行えと言われる各種ツールで必ず用意されているのが「ラストクリック」「ファーストクリック」「均等配分」の3つです。より複雑な機能をもつツールであれば、自分達で配分を変える あるいは 時間減衰を加味することなども可能です。

※小川注:評価モデルに関しては、筆者が書いた「「アトリビューション分析」連載 その5:アトリビューションの評価モデルを考える」という記事も参考になるかと思います。

どのモデルにもメリットやデメリットがあり、「常識テスト」をパスすれば、今までのラストクリック以外のモデルで見たほうがよいという結論が出ることでしょう。しかし、いろいろなモデルをこねくりまわしても、もっと良い結果は「この広告予算をこちらに寄せたほうが良い」といったような内容でしょう。したがってアトリビューション分析の成功は、「分析する」事にあるのではなく結果を元に、変更を行い・インパクトを確認・気付きを発見し・予測の精度を上げることに他なりません。


億単位の広告費を使っているような大きな企業にとって、アトリビューション分析のゴールは「どの流入施策がどのような貢献を得る」ではなく「集客ポートフォリオをどのように最適化するべきか」であるということにすぐに気付くでしょう。そして、同時にそれが非常に難しい内容であることも理解するはずです。スキルと強い意志を元に、地道なテストをとにかく続けること、複数の広告を最適化するためのコミュニケーションと運用を実現すること。しかし、これが実現できれば、名誉もお金も喜びも全て自分のものになります。


最後に

アトリビューションはとても複雑です。なぜなら現実も複雑だからです。そして、カスタマーの体験はそれ以上に複雑です。しかし、本当の最適化を目指すのであれば、取り組む以外の選択肢はありません。


しかし、闇雲に実施する必要はありません。一回で「海を沸騰」させる必要はないのです。一つずつステップを登っていき、複雑度は後から上げていきます。以下のステップがオススメです。

1.アトリビューションによって何を可視化しようとしているのかを明確にする:「MCA-O2S」「MCA-AMS」「MCA-ADC」

2.可視化しようとしている内容にあったソリューションを用意する

3.そのソリューションのデータをしっかり理解しましょう。何が得られて、どういう気付きがあるのか。徹底的に確認します。

4.まずはシンプルなモデルから分析を始めましょう。たぶんすぐに最初と均等配分は限界が見えてくるはずです。見えなければ、そのままで大丈夫。しかし、見えてきたら特に時間減衰モデルに注視してみてください。

5.時間減衰モデルを加味した分析結果をいくつか作成し、実験的に集客ポートフォリオを変えてみましょう(広告予算の再配置・配分)

6.結果を測定し、モデルを微修正しましょう。更に集客ポートフォリオを変えてみましょう

7.慣れてきたら、少しづつメディアミックス(複数の集客の相互依存や影響分析)に挑戦してみましょう

ステップを進むにつれ、「効果が減少」した場合は、一つ前のステップに戻ってみましょう。


フレームワークを理解し、直近の集客の課題を明確にし、ステップごとに進んでいけば、必ず良い結果が出るでしょう。Good Luck!


小川感想:内容自体はアトリビューションに取り組んでいらっしゃる方でしたら、理解されている内容がほとんどだったかと思います。しかし、アトリビューションに最近触れた人、または、その内容を他の人に説明する機会がある場合、上記の内容は参考になるかと思います。また既に実施されている方も、何か見落としが無いかという視点で確認してもらえれば幸いです。


記事としては以上になりますが、コメント欄において非常に活発に意見交換が行われているので、いくつかピックアップしてみました。


・データ連携を進める前に、まずは単一流入元でも良いので分析とテストを繰り返してみることが大切。結果が一回切りでも、データ連携を進める上で貴重な情報になるし、いきなりコストをかけるより結果を小さくても出すことが大切


・今は「1」の成果をどのように分配するかという話だが、「複数の施策の組み合わせによる影響」を考えると、本来分配の合計は「1」より大きくなるはず。


メールマガジン複数デバイスをつなげるための情報になりえるかも(複数のデバイスで受信が出来るため)


・あるキャンペーンを停止してまで、そのアトリビューション効果を見ます?(という内容に対する賛成と反対意見)
 測定のために施策を停止することは基本「ありえない」。なぜならビジネスのほうが優先だから。しかし、そのチャンスがある時にぜひ効果も同時に測定したい。


・広告施策の組み合わせによる相乗効果はアトリビューションモデルでどう加味すればよいのか?(あるいは見えない形で既に加味されている?)


・アトリビューションの分析の際に「ジオロケーション(位置情報)」はオフライン広告(テレビCM・新聞・雑誌など)では特に有効