アクセス解析でよく使う定義や指標としてユニークユーザー数というものがあります。サイトに訪れた人の数、あるいはサイトをみた人数ともいわれたりしますが、この数字はどれくらい正確なのでしょうか?またPCで取得できるユニークユーザー数とモバイルで取得できるユニークユーザー数では実際にみた人数により近いのはどちらだろうか。
まずはPCとモバイルでどうやってユニークユーザー数を取得しているか、そしてどういうズレの要素があるか確認をしてみましょう。
PCの場合
アクセス解析の世界おいてユニークユーザーの計測はCookieを発行し、そのCookieの中に記載されたIDの種類をカウントしています。一つのブラウザ(ブラウザが1種類しかない端末であれば、1つの端末)に対して、一つのIDが発行されます。
では、まず
計測されるユニークユーザー数>実際の人数
を考えてみましょう。言い換えると実際の人間は一人なのに、二人以上として数えられる場合です。*1
・一人の人間が複数のPCあるいはネットアクセス端末(自宅PC・職場PC・ゲーム機)を使ってサイトにアクセスしてくる。
実際とのブレ直感予測:25〜50%
参考資料:*2
・一人の人間がPC端末及び携帯端末から同じPCサイトにアクセス
実際とのブレ直感予測:10%未満
参考資料:*3 *4
・一人の人間がCookieを定期的あるいは非定期的に削除して同じPCからアクセスをしてくる。
実際とのブレ直感予測:10%未満
背景:パソコンの再インストール、履歴およびCookieの定期的削除を手動
あるいはツールを使って行っている人は少ないけど一定数いると思われる。
・一人の人間が複数の種類のブラウザで同じサイトにアクセスしてくる(ブラウザが変わるとCookieも変わります)
実際とのブレ直感予測:10%未満
参考資料:*5 *6
次に逆の
計測されるユニークユーザー数<実際の人数
を考えてみましょう。言い換えると実際の人間は複数人いるのに、一人として数えられる場合です。
・一台の共通PCを複数の人が(たとえば家族共有)で使っている
実際とのブレ直感予測:職場においては少なさそうだが、家庭だとありそう。10〜30%程度??
一家一台から一人一台傾向に伴い減少傾向にあると思われる。
・Cookieを許可せずにサイトにアクセスしてくる(本当は一人なのに、0人としてカウントされる)
実際とのブレ直感予測:実績値としてうちの会社のサイト群では0.01〜0.1%程度と少ない
・Cookieが使えないブラウザでアクセスしてくる(一部フルブラウザ)
実際とのブレ直感予測:サイトにもよるが、1%以上はなさそう。
モバイルの場合
モバイルの場合は端末識別番号を使って、ユニークユーザー数を計測をしています。つまり一台の端末に対して一つのIDが発行されます*7。この端末IDはブラウザ非依存です。
PCと同じように
計測されるユニークユーザー数>実際の人数
を考えてみましょう。
・一人の人間が複数の携帯電話を使ってサイトにアクセスしている。
実際とのブレ直感予測:8〜19%
参考資料:*8 *9 *10 *11 *12
※ちなみにモバイルの端末IDはブラウザには依存しないため、一台の端末に複数ブラウザをインストールしてアクセスしても、端末IDの種類は1のままです。
次に逆の
計測されるユニークユーザー数<実際の人数
を考えてみましょう。
・複数の人間が一つの携帯電話を使っている。
実際とのブレ直感予測:プライバシー考えるとほぼ0に近いと思われる。
・利用者が携帯端末の設定で端末IDを送ることを拒否している(実際は一人アクセスしているが計測上は0として数えられる、あるいはすべての拒否ユーザーを1ユーザーとして数える)
実際とのブレ直感予測:自分の会社のサイト情報等から数%以下と思われる
上記の情報も踏まえて
1)ユニークユーザー数の精度
2)PCとモバイルのユニークユーザー数どちらがより精度が高いか?
を改めて考えてみましょう。
1)ユニークユーザー数の精度
PCでもモバイルでもユニークユーザー数は上ぶれ及び下ぶれすることがわかりました。ぶれの度合いから考えると、最大で50%程度のブレはあってもおかしくなく、どユニークユーザーの数の精度はあまり高くなさそうです。ぶれ幅はサイトの特性にもよって変わりそうです。
例えばエロサイトのような自宅でしかみないサイトは、自宅及び会社でみるGmailよりは精度高くユニークユーザー数が取れそうな感じはします。なので、ユニークユーザーの値そのものだけではなく、サイト間で比較するのもどうやら危険そうです。では同じサイトを時系列でみる分には使えるのか?これも結構難しいところです。ブラウザシェアの変遷(IEが減少し、他のブラウザの比率が増えている)であったり、モバイルのここ5年での急激な進化であったりを考えると、時系列の利用も危険そうです。1年以内といった短期間であれば増減の比較には使えるかもしれません。
そんなわけでユニークユーザー数というのは非常に曖昧な数字だったりします。
米国でオンライン広告の86%を販売している企業が集まった団体「Interactive Advertising Bureau (IAB) 」が2008/12に発表したガイドライン(PDF)ではユニークユーザーという定義に対してアクセス解析会社及び団体に対して3つの改善・提案要求をしています*13。
1.ユニークユーザー(ユニークビジター)の定義を変えること
2.精度が低くなる原因の調査を行い、どれくらいのズレがあるかを把握すること
3.精度が低くなる要因と度合いをユーザーに積極的に開示すること
正直、アクセス解析会社及び団体がこの内容に応じる可能性は0に近いと思われます。
ユニークユーザー数の精度に関しては、現状の状態及び仕様では改善することが難しいでしょう。
2)PCとモバイルのユニークユーザー数どちらがより精度が高いか?
そもそも精度が低いという話をしてしまったので、PCとモバイルを比較するのはあまり意味なさそうですが、比較をしておきましょう。
記事の前半に書いたぶれ幅の予測値あるいは直感で考えると
PC:上ぶれも下ぶれもその幅が大きいが、総合的にみると上ぶれのケースが多そう
モバイル:上ぶれも下ぶれもPCほど大きくはないが、総合的にみると若干上ぶれのケースが多そう
というわけで、無理やり結論を出すと、モバイルのほうが実数に近いの…では?しかし、この記事の内容を見てもわかるとおり推測の部分も大きく、また他にも上ぶれ・下ぶれする要素を見逃している可能性があります。もしリストに無い点などに気付きましたらご指摘いただければと思います。
なんとかまとめてみると
ユニークユーザー数の精度は高くない。以上。
なのですが(苦笑)いくつか追記しておくと
・今後その精度はPCおよびモバイルともにますます下がりそう
・サイト間及び同サイトの時系列でUUを比較する事の意味も少なさそうだ
・でも、今はなんとなくモバイルの数字のほうがより精度が高そうだ
・現状の計測手法でズレの度合いを正確に出すのはほぼ不可能だし、非常にコストと手間がかかる
・しかし、それを代替するような、より正確な人数がわかる指標は現在存在しない
といったところでしょうか。
いかんせん代替指標がないため、今後も継続的に使われていくかと思いますが、その扱いと精度に関しては、使う人に対して認知・理解してもらう必要がありそうです。
*1:ここではリピートの期間等、アクセス解析ツールの設定によって変動する要素は除外しています
*2:ノートPC複数台所有が約3割 2008/3
*3:フルブラウザについて、これまで利用したことがあるという人は、携帯電話利用者の約1割である。 2005/10
*4:ケータイ白書2008より「携帯フルブラウザー機能の利用状況は、「利用している」が17.3%。」
*5:ブラウザを変更したことが「ある」人は1割強 2005/3
*6:インターネット白書2006より複数ブラウザ利用率5.6%
*7:2008年の3月末まではDoCoMoにおいては公式サイトでしか端末IDが発行されませんでしたが、今は非公式サイトでも発行されます
*8:19%の大学生が2台以上のケータイを所持 2008/8
*9:発表によると、携帯電話を2台以上所有する人は全体の21.9%。 2008/4
*10:携帯電話・PHSの利用者中、複数台利用者は8.9% 2007/9
*11:携帯サイトの閲覧頻度、「ほぼ毎日」78.4% 2006/9
*12:一般消費者では、92.7%が携帯サイトを利用した経験がある。 2008/8
*13:同PDFのSection 1.2/2.2/2.4より意訳