「Adobe Summit 2013」in Salt Lake Cityの感想 Part1 〜道具は用意された、さてどうする?〜

というわけで、3月6日〜3月8日に開催された「Adobe Summit 2013」に参加をしてきました。Adobe Summit は旧Omniture Summit も含めると今回で3回目の参加です。基調講演の内容に関しては、以下のサイトが参考になるかと思います。

「アートと科学を融合する」--デジタルマーケティングを強化するアドビの戦略(CNET)

アドビ、ブランド力向上を支援するデジタルマーケティング製品群を一斉アップデート(CNET)

新しい「Adobe Marketing Cloud」は、管理者、マーケター、クリエイティブの壁を超えて(in the looop)

「Adobe」の左脳が動き出す(ASCII)



今回の基調講演で発表された3つの重要なポイント

以下の3つを理解しておくと、この後の文章が読みやすいかと思います

1.Adobeは27種類ある製品を5つの製品にまとめた
2.5つの製品を総称して「Adobe Marketing Cloud」とした
3.PhotoshopIllustratorなどは既に「Adobe Creative Cloud」という形でまとめられており、「Creative Cloud」と「Marketing Cloud」は統合され、シームレスに利用出来ることになり、製作者と分析者が同じプラットフォームを利用することが可能になった


問いかけ

ウェブマーケティングと制作をどう連携して効果を最大化していくのか。Adobe Marketing Cloud という形で「道具」が用意されました。Adobe Creative Cloudとのコラボレーションも可能で、全ての操作はiPadからでも可能です*1。しかし、これはあくまでも道具です。Adobe社はこれらのツールを利用し、組織横断でサイトのゴールを達成していく事を実現した欲しいというメッセージを打ち出しました。

去年はそのコンセプト自体は共有されていたのですが、Adobe社としてはそれを推進するためのツールは30近くありました。今回はそれらのツールを5つに集約し、Adobe Marketing CloudそしAdobe Creative Cloudという製品を打ち出してきました。昨年からの大きな進歩です。


また、Adobeの基調講演だけではなく、個別のセッションで「Breaking the Silo」という話が繰り返し出て来ました。2日間であわせて10回は聞いたかと思います。この文章は何を意味しているのか。それをまずは説明します。


Siloとは

サイロ(英: silo)とは、米・小麦・とうもろこし・大豆等の農産物、家畜の飼料を蔵置・収蔵する倉庫、容器等のこと。工場等においては、粉体・粒体製品を出荷・包装(フレコンや紙袋等に充填)するまで一時的に貯蔵するタンクをサイロと称することがある(この場合、寸胴形というよりは 長めの円筒状のタンクを指す場合が多い)。

(中略)

比喩表現
貯蔵庫としてのサイロは穀物の腐食を防ぐため気密性に優れるが、ここから転じて、組織間の情報共有や風通しが悪くなり、組織運営が非効率な様を「サイロ型」と表現する

Wikipediaより

これがSiloです


比喩表現のところにある説明の通り、「組織間の情報共有や風通しが悪くなり、組織運営が非効率な様」を「Breaking(破壊する)」というメッセージです。そして、それを実現するのがAdobe Marketing Cloud と、こうなるわけです。


「風通しが悪いのは問題だが、破壊する事がほんとうに良いことなのか?」


これが今回、私が抱いた問いかけです。


最初から整理をする必要がある

この問題を考える上で、各企業で以下の事を改めて整理する必要があるでしょう。
10の質問にまとめてみました。ぜひ、この内容を社内や社外のいろいろな人と議論して欲しいと願っています。

1.皆さんの企業における、ビジネス 及び ウェブサイトにおけるゴールはなんですか?

2.それを実現するために、どのような役割の人がどのような組織で配置されていますか?

3.各部署は自分達の仕事を進める上で、他部署への相談・作業依頼・情報交換などがプロセスの中に含まれていますか?

4.部署間のやりとりを行う事によって得られているメリットはなんですか?

5.部署間のやりとりを行わない事によって得られているメリットはなんですか?

6.(現在無い場合は)どの部署がどのように連携する事によって、よりゴールを早く・より高く達成できそうですか?

7.それを実現するために課題となっているのはどのようなものでしょうか?

8.そしてその課題は、ツールによってどこまで解決されますか?ツールによって解決されないものはどのように解決されますか?

9.連携を進めることによって得られる価値を定性的・定量的に説明することはできますか?

10.そして、その内容に自信を持って推進をしたいと考えていますか?

自分もちょっと考えてみました

私は、上記の質問内容を今まで働いてきた企業に当てはめて考えてみました。「ツールから入ると痛い目に合う」そして「最初は、個人に依存したとしても、小さな形で事例と実績(そしてそれによって生まれる自信)を作り、それをツールや仕組みなどを利用してフローに取り込む」という事が、私が重要だと感じた部分です。

そして「Breaking the Silo」に関しては、「破壊」である必要は必ずしも無いと感じました。(当事者意識や権限の大きさに課題はあるものの)全社組織として、複数Siloをつなぐ役割を担うというやりかたもありますし、まずはこのテーマに賛同する有志が集まってはじめる方法もあるでしょう。いずれにせよ、CMOという存在がある程度認知され、この重要性により気づいている米国のほうが進めいやすいのは否めません。しかし、日本でも突破口を開ける(あるいは既に開いている)優秀なウェブマーケッターやクリエイターはいるでしょう。


実施方法に正解はありませんし、この連携の部分にチャレンジする価値は十分にあると思います。私も今の会社で何かできないかを模索をしてみようと思います。



考えた内容をいろいろな所で話して、問いかけてみました

まずはAdobe Summit 2013 の2日目の夜に、座談会を行わせていただきました。こちらの模様は近々、Markezineで掲載される予定ですので、その際にはぜひ読んでいただき、ご意見などいがだければ嬉しいです!座談会の時に感じたのは、「当たり前だけど、正解はなく、チャレンジをしてその最適な方法を模索し続けるしか無い」そして「ツールはあくまでも『Icing on the Cake』であり、Cakeそのものはこれを実現する事をどれだけ信じて夢見られるか」ということです。


そしてSummit の翌日にもAdobe の LehiオフィスでAdobeの安西様・上原様と座談会でお話させていただきました。こちらはオフィスツアーに参加された日本からSummitに来られていた方、約50名が対象でした。


また、この時にAdobeのSenior Vice PresidentであるBrad Rencher氏とお話をして質問する機会がありましたので、「SiloをBreakすることは必ず必要なのか?またそれを実施するべき最適なタイミングや条件はあるか?」という質問をさせていただきました。そこでの回答もあり、今回の記事の骨格を考え、10の質問を書くことが出来ました。


Adobe Summit に参加する意義

今回は実は招待枠*2で、参加させていただきました。しかし。自腹でも十分に参加する価値があると思います*3。その理由は全部で3つです。

理由1:ツールに対する思いや今後の考え方、Adobe社が目指しているものを直接聞ける

ツールはあくまでも、その製品に対する意思や思想が詰まった最終的なアウトプットです。何故、このようなツールを作っているのか、今後どういう方向に向かおうとしているのかは、当事者の思いや声を聞くしかありません。Adobe Summitでは毎回、その思いを感じることができます。また、Adobe Summit ではユーザーの声を積極的に拾うようにしています。


今年は参加できなかったのですが*4、Summitの前日・前々日にはCustomer Advisory Board(通称:CAB)というイベントがあり、御世界中から大手のお客様が集まり、製品に対する意見やフィードバック、利用事例などを話して共有する場があります。私も去年はその場に参加させていただき、日本からの要望を伝えたり、10分程度の簡単なプレゼンをさせていただきました。そこで、何名かと知り合いになり(ブラジルやスペインの会社の人なども)、Summitが終わった後も情報交換をさせていただきました。このような体験は、この場でないとやはり感じることができません。

理由2:解析やマーケティングにおけるトレンドを確認できる

去年出たキーワードやバズワードは今年はどうなっているのか?全く聞かないのか、あるいは当たり前のように浸透しているのか。そして今後「来そうな物」何か?も推測する事ができるようになります。


ちなみに去年の主なキーワードは
"Digital Self"
"Web Experience Management"
"Cross Visit Attribution"
"Social Analytics"
"Predictive Marketing"
"Connecting the Dots"
でした

今年のキーワードは
"Engage Everywhere"
"Embrace Rocket Science"
"Connect the Dots"
"People want the right stuff anywhere,anytime and any way"
"Communication and Collaboration"
あたりでした


去年と変わった部分、今年から出てきた考え方など若干の違いがあります。


SocialやCrass PlatformやAttributionは他のセッションではテーマとして複数のセッションでピックアップされていました。Attributionに関してはまだ米国でも、継続課題という印象を受けました(というか、ここ2年くらいそういった状態の認識です)


ちょっと残念だったのは、今年そして未来に向けての新しいテーマが殆ど無かったことです。去年のコンセプトを元に今年は具現化されたものが多かったという意味では良かったのですが、新しい芽が比較的少なかったです。去年と内容がほぼ同じなのに、用語だけ変わったというものもありました。1つや2つ、これはと思ったものがあったのですが、まだなんとも言えないので、自分でもうちょっと調査してみたいと思います。

理由3:上記のようなことを集中的に考える時間が確保できること

日本で数時間のセミナーに参加しても、その前後の業務のことに気がとられるということはよくあります。しかし4泊6日という期間で、周りは同じような業務や悩みを抱えている人が周りに沢山いて、自分が携わっている分野のことだけを考えて、議論出来ることは非常に有意義です。日常の業務から離れた、しっかり考えて、それをまた業務や新しい仕事として反映させていく。これは非常に重要な機会であり、お金を払ってでも手に入れたい機会です。




Part1はこれで終了となります!
Part2では参加したセッションや見てきたブースの中からいくつかピックアップして紹介をさせていただきます。そしてPart3はあまりアクセス解析とかマーケティング関係なく、食事・ショッピング・風景などの写真を中心にお送りします。どちらも1週間以内書けるかとは思いますので、お楽しみに!

*1:デモは全てiPad上で行われました

*2:SiteCatalystのユーザー会「eVar7」の代表を担当している事もあり

*3:招待されたから書いているわけではありません 笑

*4:現在SiteCatalystを利用していないこともあり