Web業界・EC業界・ソシャゲ業界の違い(後編)「商品特性とコントロールできるレバー」

前編の記事のタイトルが長すぎたので、後編はタイトルを変更いたしました。前回の記事はこちら。

「Web業界からEC業界に行ってブチ当たった、皆が教えてくれない「EC業界の見えない壁」の正体を、もやっと掴めました!」を読んで(次回ミーティングのために)整理してみました


永上さんが書かれた「Web業界からEC業界に行ってブチ当たった、皆が教えてくれない「EC業界の見えない壁」の正体を、もやっと掴めました!」の記事に乗っからせていただいたところ、アクセス解析のブログを書かれている鈴木さんや、Web担当者フォーラム編集長の安田さんを始め、多くの方に言及いただきました。

小売からECを始めようと思う人がいたら、最初に気をつけて欲しいと思う事(鈴木です。)

Web業界とEC業界はまったく違う――そのギャップがEC事業者と制作会社の仲を悪くしている?(Web担当者フォーラム)


さて、気づいたら前編から2週間ほど立ってしまったので、完全にタイミングを逃した感じはありますが、後編をひっそり書いておきたいと思います。後編は、「商品の特性とコントロールできるレバー」についての内容になります。今回も4つのパートに分けて、「商品の定義」「在庫という考え方」「商品が必要とされる回数と頻度」「コントロールできる要素と指標」という観点から3つの業界を見てみましょう。前回、私が(勝手に)定義した、3つの用語の意味を記載しておきますね。

Web業界:電子商品やサービス あるいは オフラインにコンバージョンがあるサービスのオンライン部分を提供している業界

EC業界:実在商品をオンラインで購入することができるサービスを提供している業界

ソーシャルゲーム業界:(スマートフォンを中心に)利用者への課金で成り立っているゲームやコミュニティなどのサービスを提供している業界

商品特性とコントロール出来るレバー

商品の定義


まず、それぞれの業界における「商品」を確認してみましょう。ここで言う「商品」とはお金の対価に得られる内容を指します。


Web業界の場合は「サービス」が商品になります。利用者から見ると具体的な物品ではなく、「ウェブ上の保存領域」「機能の利用や拡張」「閲覧や視聴の権利」などが上げられます。そして、その中にはサービスの利用だけではなく、サポートやアップデートなどが含まれる場合も多いです。また、購入したら終わりというわけではなく、月額などで継続的にお金をいただくというケースも一般的なのではないでしょうか。顧客は商品を購入することで「利便性」「安全性」「時間の効率化」などを対価を得ています。


EC業界の場合は「物品」が商品になります。それは「洋服」「iPhoneケース」「野菜」「鉛筆」など様々です。定期購読などもありますが、多くの場合は購入をして商品を入手したら取引としては完了することが多いです。家電などを中心に商品によっては保証期間があり、サポート・修理・交換が必要なケースがあります。サービスと違ってアップデートという概念も一部家電にはありますが。物品全体で見ると主流ではありません。顧客は商品を購入することで「その商品が提供している機能や役割」あるいは「満足感などの付随する感情」などを対価に得ています。


ソシャゲ業界の場合は「デジタルデータ」が商品になります。主にガチャで手に入るカードなどの非消費アイテム、あるいは、イベントや通常のプレイを有利に進めるアイテムのいずれかになります。他の業界と違って購入出来る内容とその役立ち度合いは値段(あるいはそれを入手するための「期待値」)に比例しています。顧客は商品を購入することで「権利」を手にいれ、その権利を利用することで「相対的な優位性」「時間の効率化」などを対価に得ています。


いずれの商品が魅力的あるためには、購入者が得られる「対価」をどれだけ高めることが出来るかが大切になってきます。そういった観点では、商品に求める内容そのものは違っても魅力的な商品を作るための考え方は一緒です。ただ一点、注意が必要なのは同じ商品でも、購入検討者が得たいと思っている対価は1つではなく、またその期待値も違うということです。


在庫という考え方


商品についての違いがわかった所で、その商品を作るためのプロセスと、在庫に関する違いを見てみましょう。

在庫(ざいこ)とは、企業・商店などが加工や販売するために保有する原材料・仕掛品・製品あるいは商品などの財貨を指す。
Wikipediaより


Web業界の場合は、主に開発・デザイン・テストなどを通じてサービスを作るというプロセスがあります。サービスがリリースされて提供が開始されないと、商品として販売することが出来ません。また、作成した後は、メンテナンス・サポート・アップデートなど商品を磨き上げ、より価値と競争力を高めていくことが(特に同業他社がいる場合は)必要となります。広告収益型の場合は利用者から直接はお金はいただかないものの、広告主からお金をいただくという形になり、このようなケースでも、まずはサービスありきになります。販売する商品に対して「在庫」という考え方はなく、仕組み上はいくつでも売ることが出来ます。ただし、人数が増えれば、商品そのものは変えなくてもサーバーや人間などのリソースの拡張(スケーラビリティ)は必要になるため、無尽蔵に増やすことが出来るわけではありません。


EC業界の場合は、商品を製作する あるいは 商品を仕入れる必要があります。そのため「在庫」という考え方が出てきます。商品を作るためのコスト、在庫を保管するためのコスト、梱包と配送に関するコストなどをはじめとする、様々なコストが発生します。特に「在庫管理コスト」に関しては商品を作れば作るほど(そしてそれが、売れなければ売れないほど)利益を圧迫していきます。

逆に在庫を無くしてしまうと、商品の販売チャンスを逃してしまう「機会損失」に繋がります。サイトを訪れる人にとって、欲しい商品がなければ(オリジナル商品でない限り)他のサイトで探すでしょう。これは、購入者にとっては別のサイトも見ないといけないという時間、そしてサイト運営者にとっては商品があれば売れたのにというチャンス、両方の損失になってしまいます。この考えがECサイトの運用を難しくしています。つまり集客と在庫(=売れる商品の種類×個数)のバランスをしっかり取る必要があるということです。


ソシャゲ業界の商品は、イラストレーターが描くカードや、新しいイベントや仕組みをプランナーが考えてエンジニアが作る事で生まれる新しいアイテムなどになります。サービスと同じく、在庫という考え方はありません。そのため理想的なのは定期的に新しい商品を投入し続けるという事です。他の業界と違い、古い商品は(イラスト的な価値などがなければ)すぐに陳腐化して価値が下がってしまいます。これは、多くのゲームではカードやアイテムの強さをインフレさせていく(あるいは別の課金要素を作る)必要があるためです。この辺の、ソシャゲ業界の仕組みや指標に関して詳しく知りたい場合は、ぜひ「ソシャゲ分析講座」をご覧ください。



在庫の有無や、商品の投入やアップデート頻度はサイトの集客・導線・コンテンツ作成にも大きく影響を与える要素です。中長期 OR 短期の集客が効果的なのか、人をどれくらいの頻度で集める必要があり、集められるための材料(ネタ)があるのか?自社商品の特性と在庫の考え方を理解しておく必要があります。


商品が必要とされる回数と頻度


商品の購入回数や頻度は、サイトへの集客や導線の分析、コンテンツの作成を行なう上で理解しておかなければいけない、大切な項目です。


Web業界では、一度サービスを購入したら、続けて2個・3個と購入する事は少なく、継続して利用していただくという考え方が中心になります。つまり売上を作るためには、必要しているけどまだ認知されていない人たちへのリーチ 及び 購入した人に継続して利用してもらう事が最重要となります。サービス利用人数×利用期間×単価 が売上のための方程式となります。複数の料金プランやサービスを提供している場合は、クロスセル(=他サービスの利用)やアップセル(=より高額な料金プランへの切り替え)によって「単価」を上げるという仕組みも大切になってきます。

いずれにせよ、新規の確保 と 継続利用のための仕組み作りが最も大切です。継続利用に関しては自社サービスの質だけではなく、同業他社との商品・サービス・値段の位置付けも大切になってきます。業界大手を取っていくような商品・サービスを作りそれにあった適切な値段を設定するのか(例:高機能なアクセス解析ツールなど)、個人も含め大勢の人に利用していただき、その中の一部を有料会員にして収益を作るのか(例:動画配信サービスやニュースアプリなど)ポジショニングを考えましょう。関係性を維持し続けるためのチャネルと手法を戦略的に考えることも大切です。


EC業界では、商品の特性によって購買パターン・個数・頻度が変わってきます。食料品や日用品と家具や家電を比較したら、前者のほうが購買頻度が短く、購入回数が多いというのが一般的ではないでしょうか。今回の記事のきっかけとなった「メンズファッション+(プラス)」でも、最初のレポート設計の時に、「リピート購入」あるいは「複数回購入」に関する指標についていろいろ議論して設定を行いました。

大切なのは適切なタイミングに、適切な内容で寄り添うことが出来るかだと考えています。不必要な時に購入を促しても購入してもらうことは無い(かえって嫌がられるかもしれません)けど、本当にその人が必要としているタイミングと内容であれば、同じ内容でも感謝され購入に繋がるかもしれません。コンテキストとタイミングをどのようにあわせるのかを考える必要があります。


ソシャゲ業界は少し特殊です。ここ5年くらいは、プレイ料金は無料のサービスが多くなっています。実質ソーシャルゲーム=基本プレイ無料・アイテム課金 という定義とも言えるのでないでしょうか。課金頻度が最も高く、いかに毎日・毎週・毎月課金をしてもらえるかに先鋭化された業界です。他の業界より直接的、かつ感情に訴える手法を活用しています。ただ、課金も勝手に生まれるものではなく、1)サービスを継続して遊びたいと思う 2)課金に見合った価値が提供される の両方を満たす必要があります。そのため、課金に繋がる施策と同じくらい、重要視されているのが継続させるための仕組みや機能作りです。連続や通算ログインボーナス・カムバックボーナス・初心者限定ガチャなどはその一例です。ソシャゲにおいて最も大切なのは、課金に見合った価値を提供するということです。より具体的には、課金で手にいれたカードやアイテムの活躍の機会を用意するということでもあります。


コントロールできる要素と指標


前編・後編と分けて違いを確認してきましたが、最後にコントロールできる「レバー」を見てみましょう。ここで言うレバーとは「liver」ではなく「lever」の事で、操縦桿や取っ手のことを指します。それぞれの業界で、運営側がどこまでコントロールできるのか?という内容になります。そして、ここでいうコントロールとは、顧客をコントロールするという意味ではなく、自分達の施策や自由にできる範囲のことを意味しています。


Web業界の場合は非常に多種多様なレバーを持っています。集客施策や料金体系、コンテンツやUX部分の作り方など、非常に自由度が高いのではないでしょうか。在庫を抱えるという考え方もなく、自由度が高いです。商品がサービスのため、リリース後も改善や機能追加などを行なうことが可能です。自由度が高い分、出来ること・試せることは多いのですが、何が効くかをしっかり試しながら行う必要があります。クリエイティブによる自由度は他の業界ほど高くなく、最終的にはサービスとサポートの質が大切なのではないでしょうか。


EC業界はレバーの数は限られています。今まで見てきたように、商品によってその対象者や集客方法が決まってきます。自社開発の場合は商品に対する自由度は多少あれど、作った後の細かい変更は難しく、また在庫という概念もあり「どれくらい作るか」ということを考える必要があります。商品を仕入れて販売する場合も、仕入れ先を探す必要がありますし、自分で商品を作るわけではないので扱えるものに対する自由度が低く、価格も「決まってしまいやすい」ということになります。だからこそ、クリエイティブやコンテンツなど商品の魅力の伝え方やブランドイメージが大切になってきますし、限られた施策を磨いていく事で改善を図ることが可能です。


ソシャゲ業界は、課金の仕組みや方程式がかっちり決まっています。どういう要素があれば儲かるか、どうやったら課金をしてもらえるか。ある程度「見えている」部分が他の業界と比べて多いのではないでしょうか。ですが、それを用意したからといって成功するとは限らないのが難しいところです。いくら良いサービスやゲームを作っても人が集まらなければ意味がありません。最初に(あるいは途中からでも)人を集める戦略というのが必要ですし、そこはお金によって左右される部分が大きいというのも特徴です。これは単純に広告費の話だけではなく、声優・イラストレーターなどをはじめとするサービスの認知度や上げるための仕組みの部分も集客には関わってきます。課金や継続に関するお約束を守りながら、新しい要素を入れていく。戦略的にレバーを動かす部分と、そうではないレバーをバランス良く用意して、数と質の両方を求めて、いろいろ動かしていく必要があると考えています。



まとめ


さてはて、自由気ままに2回に分けて書いてきました。とりあえず今回の2つの記事では、「主な違い」を浮き立たせることに注力しました。そのため、この違いを受けてどうすればよいか?という部分にはあまり踏み込めませんでした(というか、踏み込む知識もないのですが 汗)。私の本職はウェブ分析・アクセス解析の人間なので視点としてはかなり偏っているかと思います。数値で可視化して、それらを確認しながら、改善施策を回していくかという観点で書かれている部分が多いです。ぜひ、皆様の分類や切り口を知りたいなと書いていて思いました。



最後に、こういった内容を書く場合、本来は「顧客のニーズや悩み」から入っていく事が大切です。
ここに書いた内容は、お客さんから見ればどうでも良い話であって、いかに

「顧客が抱えているニーズをどのように実現し、課題をどのように解決するのか(そして儲けていくのか)」

という視点が、本来は考えるべきスタート地点です。業界が違うため、具体的な施策は違えど、本質的な部分に変わりはありません。その上で、戦略や戦術、施策を考えたりする際に違いを意識してもらえればと思います。



次回からはいつものアクセス解析系の記事に戻りますね。
自分の領域と領分を2歩程出て書いてみましたが、楽しかったです!