ソシャゲ分析講座 基本編(その8):「イベントの分析」を理解する(後編)

最近は業務で、ソーシャルゲームの分析&改善施策の提案を行っています。そこで、本ブログではミニ連載という形で、ソーシャルゲームの分析手法について紹介をしていきます。全10回を予定しております。

■過去の連載記事
ソシャゲ分析講座 基本編(その1):「売上の方程式」を理解する
ソシャゲ分析講座 基本編(その2):「DAU」を理解する
ソシャゲ分析講座 基本編(その3):「継続率」を理解する
ソシャゲ分析講座 基本編(その4):「スペンド率」を理解する
ソシャゲ分析講座 基本編(その5):「ARPPU」を理解する
ソシャゲ分析講座 基本編(その6):「4つのステージとKPI」を理解する
ソシャゲ分析講座 基本編(その7):「イベントの分析」を理解する(前編)
ソシャゲ分析講座 基本編(その8):「イベントの分析」を理解する(後編)
ソシャゲ分析講座 基本編(その9):「カード」と「ガチャ」を理解する(前編)
ソシャゲ分析講座 基本編(その10):「カード」と「ガチャ」を理解する(後編)


Amebaのソーシャルゲーム「ミリオンチェイン

イベントにおける「レベルデザイン」

「レベルデザイン」という単語を聞いた事がありますでしょうか?ゲーム中のマップ/エリアの空間や環境、難易度などを設計/作成するといった内容を指します。ソーシャルゲームにおいては、主に「敵の強さ」「もらえる報酬の設定」「ガチャの設計」「各種期待値の算出」「中押しの設定」などが上げられます。イベントが面白く感じられるかは主に「イベントの種類(前回紹介した記事を参照)」「モチーフ(出てくるキャラやテーマの魅力」そして「レベルデザイン」に依存します。簡単すぎては手応えもなくあっさり終わってしまいますし、難しすぎては途中で諦めてしまいます。また、報酬が使った時間やお金に見合わなければ手に入れたいと思いませんし、簡単すぎれば価値を感じてくれなくなります。


レベルデザインに置いて大切な3つの考え方

細かいパラメータの設定方法などはここでは延べません。以下の3つの考え方がソーシャルゲームにおけるレベルデザインは重要だと筆者は考えています。その3つとは

1.時間や使ったお金に見合った報酬が用意され、価値が保たれていること

2.お金に見合った効果が発揮される事と同時に、今までの頑張りが無駄になっていないこと

3.離脱をしないための工夫が行われていること

この3つではないでしょうか*1。それぞれを紹介してみます。


1.時間や使ったお金に見合った報酬が用意され、価値が保たれていること

イベントに参加した人は、時間・お金あるいはその両方を使います。せっかくお金や時間を使ったのにそれに見合った報酬が手に入らないようでは継続して遊んでくれません。これをしっかりコントロールすることが大切になります。例えばあるイベントで手に入るカードは平均10時間遊んで5000円使ったら手に入るとします。しかし次のイベントでは、平均2時間遊んで1000円に手に入ってしまいます。そうすると最初のイベントで頑張った人はものすごく損した気分になるのではないでしょうか。


このような不公平が起きてしまわないように、各イベントで見るべき重要な指標がいくつかあります。1つ目は「取得率」です。イベント参加者の内、何割が該当の報酬を手に入れたかを表すものです。同じような強さや魅力の報酬に関してはこの取得率を極力あわせたほうが良いでしょう。次に見るべきは「取得単価」です。該当する報酬を手にいれる人は平均いくらのお金を使ったかという事です。こちらも同じ強さや魅力であれば揃えることが大切になります。そして最後に「獲得にかかった時間」です。使ったお金によって変わってくるでしょうから、いくつかの想定(例:無課金・2000円利用など)で見ておくと良いです。


例)4つのイベント×5つの主要カード(同じくらいの強さ)における取得率と取得単価


この辺を全く考慮せずに、入手条件を設定してはいけません。ちなみに入手条件は主に「ランキング(例:上位5000位以内)」あるいは「得点報酬(例:50000点獲得時に入手)」という主に2種類あります。この2つは似ているようで考え方が大きく違います。入手条件にはついはこの後すぐに触れます。見合った報酬を用意し、価値を保つためには事前に報酬に対して価値を設定しておく必要があります。例えばSレアというレアリティのカードで、コストが20というカードであれば入手に平均10,000円かけて欲しいといった形です。


では、そもそも「10,000円」という価値についてはどう設定するのか?これは難しいところです。1つは他のゲームなどを参考に設定するという考え方。もう1つは同じようなレアリティ・コストのカードをガチャで手に入れるとしたらどれくらいかかるか(=期待値)を元に設定するという方法です。後者のガチャの期待値を使う場合は、同じ金額に設定するのではなく、それより少し安い金額に設定しないと、お金だけではなく時間も使うという事を考えると手に入れようおと考えません。サービスをリリースする前に、この辺りははしっかり決めておく必要があります。


余談:入手条件に関して

余談になってしまいますが、少し触れておきたいと思います。入手条件として「ランキング(=相対報酬)」「得点(=絶対報酬)」があるという内容を紹介いたしました。その違いを表にまとめましたので、確認してみましょう。

項目 相対報酬 絶対報酬
入手タイミング イベント終了後 イベント途中
入手人数 厳密にコントロール可能 厳密にコントロールは難しい
価値 順位次第だが基本的には高い 点数次第だが基本的には低い
対象 上級者〜中級者 中級者〜初心者
離脱ポイント なりにくい なりやすい

特に大切なのが、1番目の「入手タイミング」です。絶対報酬については「イベント中に入手出来る」ため、その報酬をイベント中に利用する事が出来ます。イベントより有利に進めるための報酬を追いたりすることも可能です。相対報酬に関してはイベント終了後に手に入るため、どちらかというとイベント後(あるいは次のイベント)で利用出来る報酬でないと意味がありません。何をどのタイミングで渡すのかはレベルデザインをする上でも非常に大切な考え方です。



相対報酬の例「天下統一クロニクル」


2.お金に見合った効果が発揮されると同時に、今までの頑張りが無駄になっていないこと

ここで書いてある「効果」とは、お金を使った時に「使ってよかった」と思ってもらえるような内容になっているという事です。例えば100円使うと獲得点数が3分間2倍にあるアイテムがあるとします。従ってこのアイテムは100円に対して3分間の時短(=時間短縮)になっているということです。この効果に対して価値を感じるのであれば100円を使うし、感じないのであれば100円を使いません。お金に対してその効果を実感出来るかは大切です。具体的には「順位や得点が一気に上がるか」あるいは「相手に対して(ほぼ確実に)勝てるようになるか」 といったことです。


例えば100円使って自分の攻撃力を2倍にするアイテムがあったとします。そのアイテムを使った上で、同アイテムを使っていない(あるいはお金を使っていない)対戦相手に負けてしまったとしましょう。これでは、お金を使ったことが丸々損となってしまい、今後お金を使いたいと思わないことでしょう。これもお金に対して効果が発揮できているとはいえません*2。利用者は(ガチャを除き)不確実なものにお金を使う事は少ないです。


また、全てお金だけで解決出来てしまっては意味がありません。それが文章の後半にある「今までの頑張りが無駄になっていないこと」という事です。同じ100円を使うのであれば、1時間遊んだ人と、10時間遊んだ人では後者のほうがより強いあるいはイベントを有利に進められるようになってなければいけません。またお金を使わない場合も、時間がかけた分だけの進捗が無いといけません。つまり無課金でも遊べるようになっていなければ、ゲームとしては成立しません。無課金の人が辞めてしまえば、単純に金額だけの勝負になってしまいます。レベルデザインを行なう上で、お金を使ったらどれくらい効果があるのか、無課金だとどこまで進めるのか(例:どの絶対報酬までに手に入るのか、ランキングで何位まで入れるのか)という事を事前にシミュレーションしておくことは非常に大切です。



3.離脱をしないための工夫が行われていること

利用者がイベントに参加したのにすぐに辞めてしまっては、作った側としてももったいないですし、遊んでいる人にとってもする事が無くなってしまいます。イベントにおける離脱ポイントは主に4つあります。「最初から難しすぎてどうにもならない」「対戦相手に負けてばっかりで楽しくない」「欲しい報酬が手にはいってしまい離脱してしまう」「ランキングでどうやっても勝てる気がしない」という内容です。


それぞれの考え方と基本的な対策を紹介いたします。

A.最初から難しすぎてどうにもならない

遊んで見たものの、報酬が全然手に入らないし敵も強いし楽しくないという状態です。対策としては、序盤には細かい範囲での絶対報酬の用意と、難易度を下げる必要があります。とにかく序盤に関しては進みやすい、勝ちやすい状態を作ってあげることが大切です。多くのゲームでこの考え方は取り入れられており、強さは直線的に伸びていかず、加速度的に伸びていく形の設定になっています。最初は遊びやすくする事を意識したレベルデザインを行いましょう。

B.対戦相手に負けてばっかりで楽しくない

対戦型のイベントでは勝ち負けが明確になります。そのため、負けが連続してしまうと諦めの気持ちが出てしまいます。また勝ちばっかりでも悔しさを味わう事が出来なくなってしまいます。そこでたいせつなのが「マッチングロジック」というものになります。これは対戦相手を決めるための条件やロジックのことを指します。例えばユーザー同士が対戦するイベントで、ランダムで対戦相手を決めていてはコントロールが全く出来なくなってしまいます。例えば「同じくらいの強さの人に当たる。だけど、3連勝した後は自分より強い相手に、3連敗した後は自分より弱い相手にあたる」といった形の設定が必要です*3。勝ちすぎず、負けすぎず。ほどよい悔しさを感じるという事が継続して遊んでもらう上では大切になります。

C.欲しい報酬が手に入ってしまい離脱してしまう

絶対報酬の時に起きやすいパターンです。多くのイベントでは目玉となる報酬を得点報酬にいくつか配置します。例えば以下の様な感じですね

100点:消費アイテム
200点:消費アイテム
500点:ちょっとしたカード
800点:ゲーム内通貨×50
1200点:見た目を変えるためのアイテム
1700点:消費アイテム×2
2500点:それなりに良いカード
3500点:消費アイテム×3
5000点:ゲーム内通貨×100
7000点:消費アイテム×3
10000点:とっても良いカード

この時に、イベントにおける目玉は10000点のカードなのですが、そこまでは簡単に辿り着くことは出来ません。そこで遊んでいる初心者や中級者は500点や2500点のカードを取得して辞めてしまいます。これではイベントを短時間しか楽しむことが出来ないし、サービスの運営側から見ると、多くの人に時間やお金を使ってもらい10,000点のカードを手にいれてもらう事が出来ません。


例えば初心者ががんばって2500点のカードを手にいれたとしましょう。その時に感じるのは「今とった点数の4倍も取らないといけないし、その後手に入る消費アイテムやゲーム内通貨は別に欲しくないから、このイベントはここまででいいや」という思いではないでしょうか。では、このような状態を解決するためにはどのような対策を行えばよいのでしょうか。理想はみんなが欲しい報酬を全ての得点しきい値に用意することですが、これは現実的ではないことのほうが多いです。主にカードにかかる制作費や時間の問題や、大勢の人がカードを手に入れてしまうことによるカード価値の定価やインフレの発生などが原因です。


そこでできることは主に2つです。1つは「良い報酬を手に入れた後に、すぐ次の報酬が手に入る」ということです。例えば上記の例であれば、

2500点:それなりに良いカード
3500点:消費アイテム×3

となっているところを

2500点:それなりに良いカード
3000点:消費アイテム×3

という風に変更することによって、「どうしても欲しいわじゃないけどすぐに手に入りそうだし、頑張っておくか」という気持ちをもってもらうという事です。



例:モグにおける得点報酬


もう一つは適切なタイミングでイベントを進みやすくするためのアイテムをプレゼントしたり、良いカードを入手した直後に「点数2倍タイム」を発生させたりという形で離脱しそうな時に、それを思いとどませるような施策を用意しておくということになります。離脱ポイントなどを分析して、その得点前後をターゲットにして施策を設定してみると有効かもしれません。



D.ランキングでどうやっても勝てる気がしない

ランキングはイベントが終わるまでわからないため、参加者は気を抜けない状態が続きます。ランキング争いを行なう上でもっとも楽しくて盛り上がる状態というのは、ランキング争いをして頻繁に順位が入れ替わるということではないでしょうか。時間やお金を使っても順位が変動しないのであれば、頑張る意欲も下がってしまいます。そのため、「短時間で得点を稼げる仕組み」というのが必要となります。そして、この仕組みというのは全員が同時に発生してしまっては、差が縮まらないため意味がありません。人によって違うタイミングや条件で発生することでデッドヒートを(ある程度)用意する事が出来ます。どのようにランキングを盛り上げるような仕組みを作り、なおかつ不公平にしないか。レベルデザインを行う人の腕の見せ所でもあります。



最後に & 次回の内容

今回紹介したのはレベルデザインの基本的な部分にになります。サービスやイベントによって設計してくるものは大きく変わってきます。前回紹介したGvG形式のイベントであれば、「どのギルドとどのギルドを対戦させるか」といったマッチングに関するロジックなども考える必要がありますし、報酬設計も実際にはかなり複雑なものとなっています。レベルデザインに関する記事は沢山ありますので、興味を持ちましたらぜひインターネット上にある他の記事も読んでみてください。本連載は残り2回ということで、最後の2回は「ガチャ」について取り上げます。


■過去の連載記事
ソシャゲ分析講座 基本編(その1):「売上の方程式」を理解する
ソシャゲ分析講座 基本編(その2):「DAU」を理解する
ソシャゲ分析講座 基本編(その3):「継続率」を理解する
ソシャゲ分析講座 基本編(その4):「スペンド率」を理解する
ソシャゲ分析講座 基本編(その5):「ARPPU」を理解する
ソシャゲ分析講座 基本編(その6):「4つのステージとKPI」を理解する
ソシャゲ分析講座 基本編(その7):「イベントの分析」を理解する(前編)
ソシャゲ分析講座 基本編(その8):「イベントの分析」を理解する(後編)
ソシャゲ分析講座 基本編(その9):「カード」と「ガチャ」を理解する(前編)
ソシャゲ分析講座 基本編(その10):「カード」と「ガチャ」を理解する(後編)

*1:レベルデザインは広義ではパラメータだけではなくゲームの世界そのものの設計を指すことが多いのですが、ソシャゲにおいては主にこの部分が大切になっています

*2:こういったケースもゲーム内には存在する事はあります。スパイス的には必要かもしれませんが、それが連続で発生してしまってはいけません

*3:実際にはもっと細かく条件設定を行っています