次世代マーケティングプラットフォーム

湯川鶴章さんからご献本いただきました。ありがとうございます。


湯川さんといえば「湯川鶴章のIT潮流」というブログを執筆されており、数々の講演や著書をお持ちの方で、このブログをご覧になっている方は当然ご存じかとは思います。その湯川さんの最新の本「次世代マーケティングプラットフォームについて僭越ながら書評を*1書かせていただきます。長文になりますが、お時間ありましたら最後までご一読くださいませ。


まず本の概要に関してはAmazonより引用。

内容紹介
広告を超えるテクノロジーの現在とこれから
『次世代広告テクノロジー』待望の続編。
デジタルサイネージ、広告マーケットプレース、ウェブ解析とCRMなど、台頭するテクノロジーの現在を徹底取材。
「広く告げる」から「売れる仕組み」へと再定義される広告・マーケティングの未来を大胆に予測。

マスメディアをベースにした「広く告げる」を意味する広告は、その存在価値を著しく低下させつつある。
企業から消費者に発信されるメッセージは、より特定の層にターゲットされ、よりパーソナライズなものに変化し、販売促進に近いコミュニケーションになっていく。
そして、そのプロセスは自動化され、これまで「広告」「メディア」といった業態が担っていた役割の多くを代替することになる。
IT業界の最先端を見つめ続けてきた異色のジャーナリストが米国を中心に台頭する広告の「周縁」テクノロジーを徹底取材。
20世紀型広告の「終焉」を示唆する衝撃の書。

第一章は「広告からテクノロジー」と題し、広告の周縁が終焉を加速させる事を書いています。具体的に言うと、既存の4マスメディア(コア)の世界の中だけでは、大きなイノベーションは起きず、周縁にある新たなメディア(インターネットであったりデジタルサイネージであったり)で革新が起きていく。その結果、周縁は広がり、コアは無くならない物の縮小していくという内容です。


特に広告業界では、4マスメディアの革新への取り組みや対応が経営的な視点からも遅れてきたため、この考え方は非常に納得感があります。「モバゲーはTVCMを行ったのを見たから、大手企業からの広告出稿が増えた」というコメントは印象的でした。


私が在籍している会社では、4マスにもネットにも広告を打っており、なおかつ自分たちでメディアも作っているため、出稿側にも媒体側にも立っています。そういった環境の中、やはり周縁と呼ばれるインターネット端末(PC・モバイル等)の広告に関する意識や技術の変化はもの凄い早いスパンで革新が起きていることを実感しています。集客の仕方も、自前集客→検索エンジンポータルのディレクトリ登録→SEO→キーワード広告という流れで5年〜10年の間で変わってきており、今ではAPIRSS・行動ターゲッティング・アフィリエイトウィジェット・セカンドタブ(プリインストールPCのブラウザのセカンドタブに自社サイトを表示させる施策)・TVやワンセグとの連動など百花繚乱、暗中模索な状態です。それに比べ4マスはコストは多少変わってきている物の、手法や慣習ははとんど変わっていません。


そして第一章の最後に、究極の広告とは「三河屋さん的な物」という提言があります。サザエさんに出てくる三河屋さんのように、1対1のきめ細やかな、その人にあった、その人向けの情報やサービスなどを提供するという物です。マスメディアでは行えない物で、インターネット上の世界ではそれを実現するためのツールあるいは情報源として、CRMや行動ターゲッティングや360度マーケティング(あらゆる機会を通じて利用者と接するマーケティング)という物が出てきています。我が社でもやはり、検索連動型広告に関しては限界を感じている部分もあり*2、まさにこういう部分に取り組んでいたり、取り組もうとしています。本当に一人、一人にあった広告であったり情報提供を出来れば良いのですが(運用上や仕組み上現実感が無く、コストがペイするる所までは難しいと思うので)まずは最低限、行動ログからグルーピングを行い、そのグルーピングにあわせた的確なタイミングと内容の情報提供を行っていこうと考えています。なので、集客を増やすという視点から、以下に効率よくコストをおさえてコンバージョンさせるか。という事が大きな鍵になっています。



第二章では「三河屋さん的なサービス」を提供した先駆者としてAmazonを紹介し、その後に「Omniture社」「Salesforce.com社」「DoubleClick社」というマーケティングプラットフォームの中核になっているあるいはなろうとしている3社を取り上げ、インタビューとあわせて、その特徴を紹介しています。


Omniture社*3はコアシステムであるアクセス解析システムであるSiteCatalyst及び、パートナー企業とのデータ連携が簡単に行える(Web上の設定とデータ取得だけで)Genesisを取り上げています。アメリカでは連携出来るサービスが150を超えていますが、日本ではこれから本格的にスタートするタイミングにあり、日本でのパートナーは限られています。今年の9/12にダブルクリック社のメール配信システムとの連携が発表されています*4


Omniture社に関しては私自身、幸いにも本書で取材されているCEOのJosh Jamesをはじめ、コンサルティングチームのトップであるMatt Belkinや日本法人のトップであるマーカス・尾辻さん等とお話をする機会がありました。そういった話の中でも、確かにアクセス解析システムであるSiteCatalystはもちろんの事、ログデータを中心に他のデータ(検索関連であったり、上記のGenesisであったり)とどう結びつけ活用していくかという事も大切にしている企業だという印象を受けました。また、それを実現するために買収も積極的に行われています。日本ですと、楽天やヤフー、ITMedia価格.comさんなどが導入しており、大企業向けのサービスになります。*5


次の「Salesforce.com社」に関してはご存じの方も多いかと思います。本の中では主力商品でWebベース(SaaS)のCRMソリューションであるSalesforceではなく、Salesforceを拡張出来るサードパーティプログラムの売買サービス「AppExchange」に関して取り上げています。Salesforceのプラットフォームやインフラを使いながらビジネスを行えるというモデルです。*6


ここでも上記のGenesis同様大事なのは、他のサービスや企業とリンクをする事が、新たなイノベーションであり、価値提供であり、周縁の拡大に繋がっていくと言うことです。私自身は現在Salesforce.comを使っていないので最新の状況は分かりませんが、大事なのはこういった手法を取れるという事実が非常に意義があり、一社だけでは行えない、革新とコンテンツの充実に繋がるのかと思っています。


最後の「DoubleClick社」は日本でもおなじみの広告配信サービスを行っている会社です。ここでは「DoubleClick Advertising Exchange」という広告枠を売買するためのサービスについて紹介しています。媒体側は希望価格や掲載期間を登録。広告主側は自分たちが出したい条件(金額・期間・ターゲット層など)を設定すると、最適な広告に配信してくれるという仕組みです。またこの仕組みと広告枠管理ツールであるDARTとの連携によって、分析や管理まで連動して行えるというのが特徴です。本格的に盛り上がっていくのか?というのはまだ分かりませんが、DARTを導入して、自分もいろいろ触ったりしているので期待はしております(笑)


どのツールやサービスも共通点として「連携」であったり「他企業との協働」を大切にしておりインタビューでもそういった発言が見受けられました。上記3製品の連携自体は既に米国では行われており、日本でも今後その動きは「黒船(外資)企業」を中心に進んでいくかと思います。非常に意味があり、美しい世界だとは思うのですが、実際に使う側として使いこなすには相当なリソースと知識が必要になることは間違いなく、どんな会社でも手軽に使えるという事には当分はならなさそうです。



第三章では米国の様々なデジタルサイネージ*7の事例について紹介しています。このデジタルサイネージのポイントはオフラインのユーザー(うちら人間に対して)的確な広告や情報を提供したり、インターネットに繋がっていることによって情報の更新や蓄積・分析が出来ることにあります。日本ではレジでの広告表示や、LoppiやFamiポートといった情報端末に似ているかなと個人的には思います。


しかし米国ではより先進的な利用の仕方をしており、レストランやバーに無料でテレビを提供し、そこに広告を表示させるといったサービスを行っている企業があったり、WallMartなどの小売店では売り場ごとに最適な広告を出しそれを全てネットワーク上で管理や更新などを行っています。まだディスプレイとカメラと顔認識を使って、ディスプレイに表示されている広告を実際に何人が見たか?それは男性・女性・大人・子供だったのか?といった集計・分析も実用化が始まっている所まで進んでいます。


今は4大メディアで行われているオフラインの集客に対しての革新であり、これはまさに周縁だからこそ出来た発想とイノベーションと感じています。将来的には、吊り広告・看板広告などはもちろん、様々な場所で最適化された広告が表示されるようになるのでしょう。それは果たして利用者にとって気持ちよい物なのか?気持ち悪い物なのか?それは分りませんが、でも全てが自動化される事は無いでしょう。


こういったデータを利用した最適解はあくまで今までの履歴に基づく物です。新たな出会いであったり、新しい気づきを与えるためにも、「クリエイティブ」は引き続き必要であり、重要な要素だと思っています。ただ書評の最初の方にも書いたとおりコアは無くならない物の縮小するという意味では、クリエイティブの重要性あるいは「活躍の場所」は減っていく傾向にあるかと思います。



第4章ではモバイルについても軽くふれています。多くの方がご存じのように、モバイルの集客や広告は進んできてはいる物の、計測や最適化含め、「まだこれから」というのが日本でも他の国でも共通認識かと思います。世界の中でも(個人的には)特徴的かと進んでいると思う日本の端末は、非常に広告最適化に夢と希望があると思います。電車の乗車情報から購入履歴まで全て結びつき、それにあわせて情報やサービス提供が出来れば、まだまだ人は動かせるのでは?と思ってしまいます。


しかし「行動ターゲティング広告はどこまで許されるのか」という記事を一つ前のブログの記事で紹介いたしましたが、プライバシーの問題は今後の広告最適化の進化において大きなポイントになります。この事については第6章で紹介されています。また同じ章で「まだ見ぬ商品との幸運な出会い」についてStumbleUponというサイトが紹介されています。興味があるトピックスを登録しておけば、そのトピックスに関連するサイトがランダムで表示されるという物です。


この方法自体は不完全であり「見ぬ商品との幸運な出会い」というところまで提供するのは難しいかと思いますが、ユーザーが持っている興味の視点を「広げる」あるいは「少しずらしてあげる」という手法を実現していくことは大きなビジネスチャンスであり、まだ実現出来ていない内容だと感じています。



最終章である第7章では改めて今までの内容を振り返り「で、結局未来はどうなるの?」という所に集約されていきます。その内容に関してはぜひ本を読んでみてください。個人的には改めて「連携」というのは大きな要素になると感じていますし、現在の変革の流れは止まらない中、それをどう活用していくかが鍵になると思います。しかし活用出来るには、少なくとも現在のアクセス解析ツールレベルの使いやすさと運用の手間*8にならないと、いくら効果が出そうと思っていても実際の導入・運用までは見込めないでしょう。


この本を読んで、広告や分析の世界は、改めて未来がいっぱいあり楽しいなぁという事を実感いたしました(笑)日々の業務に追われているとどうしても見誤ったり忘れてしまう、目指す世界や目的を改めて再認識するきっかけをくれた本書に感謝です。


追記:湯川様に書評を紹介いただきました。改めてありがとうございます。

*1:というか紹介+自分のコメントになってしまっていますが

*2:サイトによっては既に入札を尽くしてしまいこれ以上集客を増やせなかったり、逆に集客過多になっているサイトもあったり、CPAがこれ以上安くならないなどいろいろです

*3:OmnitureのTOPページを見たら、湯川さんの方が紹介されていました。一部をpdfで読むことも可能だそうです。2008/10/17現在

*4:後述するダブルクリック社のDARTとの日本での連携も当然視野に入っているかと思います

*5:というか小さな会社だと使いこなせないかと思います

*6:他にもiTunesのAppStoreなども規模は違う物のこういった系統の物になるかと思います

*7:デジタルサイネージ(Digital Signage)とは、表示と通信にデジタル技術を活用し、従来の印刷ポスター等に代わって平面ディスプレイやプロジェクタ等によって映像や情報を表示する新たな公告媒体である。Wikipediaより

*8:アクセス解析ツール自身が、まだまだ使いずらいですが